雷の呼吸には、本来「壱ノ型」から「陸ノ型」までの計6つの基本型が存在します。しかし善逸は、どれほど血のにじむ鍛錬を重ねても壱ノ型以外の技を習得することができませんでした。この「技が一つしか使えない理由」こそが、善逸という剣士を形作る最大の核となっています。
善逸の育手であり、元鳴柱の桑島慈悟郎(通称・じいちゃん)は、泣き叫び逃げ出そうとする善逸を見捨てることなく、次のような言葉を遺しました。
「一つのことしかできないなら、それを極め抜け。極限の極限まで磨け。泣いてもいい、逃げてもいい、ただ諦めるな」
刀鍛冶が鋼を叩いて叩いて不純物を叩き出し、強靭な一本の刃へと鍛え上げるように、じいちゃんは善逸の不器用さを否定せず、「たった一つの技を誰も真似できない領域まで研ぎ澄ます」という方針を貫きました。
ここに対照的な存在として配置されているのが、兄弟子の獪岳です。獪岳は壱ノ型以外の「弐ノ型から陸ノ型」を完璧に使いこなす秀才でありながら、すべての起点となる「壱ノ型」だけはどうしても使えませんでした。基本を極め抜いた善逸と、基本を蔑ろにして手数の多さに溺れた獪岳。この明確な対比構造は、作品全体を通じた極めて重厚なテーマ性を物語っています。