時計の針を少し巻き戻してみよう。かつて居酒屋や焼肉屋の定番だった生レバーが姿を消したのは2012年のことだ。厚生労働省が牛レバーの生食提供を法的に禁止した際、外食産業には激震が走った。客からは落胆の声が上がり、業界関係者からは過剰規制だと批判する声も少なくなかった。
だが、この厳しい規制こそが日本の厨房にパラダイムシフトをもたらした。生で出せないのなら、火入れによって生以上の感動を作り出すしかない。料理人たちは血の滲むような試行錯誤を繰り返し、低温調理器具の導入や、オリーブオイルと塩を使った新しいアプローチを切り拓いていった。
食品衛生への意識が格段に高まったことで、結果として日本の肉料理の技術水準は世界でも類を見ない高みへと押し上げられた。規制は文化の破壊ではなく、新たな調理技術を生み出す強烈な起爆剤となったのである。