ルーアンの旧市場広場(ヴュー・マルシェ広場)に築かれた巨大な火刑台の上で、ジャンヌ・ダルクが最期の瞬間に残した言葉は「イエス(Jésus)」という叫びでした。煙が立ち込め、足元から燃え盛る業火が衣類を焼き尽くす極限状態のなか、彼女は視線を一点に固定し、絶命するその瞬間まで何度も主の名を呼び続けました。
処刑台に上がったジャンヌは、立ち会っていた修道士イザンバール・ド・ラ・ピエールに対し、広場の教会から「手持ちの行列用十字架」を持ってきて目の前に掲げ続けるよう懇願しました。炎が激しさを増しても彼女は祈りを止めず、次のように語りかけたと復権裁判の証言録に記録されています。
「神の御名によって、私は我が使命を果たしました。私の聞いた声は神から届いたものであり、決して欺瞞ではありませんでした」
そして火柱が全身を覆った瞬間、彼女の口から最後に絞り出されたのが、広場全体に響き渡る渾身の「イエス!」という絶叫でした。この叫びの意味は、単なる苦痛の吐露ではありません。自身を罠に嵌めた偽りの教会権力に対し、自らの魂が真の神とともにあることを証明する、命を賭した信仰の最終宣言だったのです。