「膝の水は一度抜くと癖になり、何度も抜かなければならなくなる」という言説は、日本の医療現場において数十年以上にわたり囁かれ続けている代表的な医療神話(誤解)です。
この噂が広く定着してしまった背景には、患者の体験に伴う「原因と結果の取り違え(因果関係の逆転)」が存在します。水を抜いても再び溜まってしまうのは、穿刺行為が原因ではなく、「軟骨のすり減りや滑膜の炎症という根本原因が治っていないから」にほかなりません。水槽の水漏れに例えるなら、溢れ出た水を拭き取った(水を抜いた)だけで、蛇口の故障(関節の炎症)を修理していなければ再び水が溢れるのは自明の理です。
医学的見地から言えば、溜まった水を長期間放置することこそが関節軟骨の破壊を加速させます。炎症性サイトカインを大量に含んだ関節液が関節内に充満し続けると、軟骨をさらに溶かし、関節内圧の上昇によって激しい鈍痛や可動域制限を引き起こすからです。専門医による適切な判断のもとで水を抜く処置は、痛みを緩和し炎症を鎮めるための正当かつ不可欠な治療介入です。