ポップカルチャーの世界でも、そば湯は日本人の心を映し出す重要なモチーフとして描かれてきた。名作グルメ漫画『美味しんぼ』では、そば湯の良し悪しが出汁やかえしの本質を暴く試金石として度々登場し、蕎麦粉をわざわざ溶いた「別仕立て」のそば湯と、茹で釜からそのまま掬った本物のそば湯の違いを鋭く問うエピソードが読者を唸らせた。
一方、『孤独のグルメ』の主人公・井之頭五郎が下町の古びた蕎麦屋で魅せる所作は、より日常的で官能的だ。濃いつゆに熱々のそば湯を注ぎ、ふうふうと息を吹きかけながら飲み干し、「これこれ、この一杯で今日が締まるんだ」と心の中で呟くシーン。そこには、格式張ったマナーを超えた、大衆食としてのあたたかい至福が満ちている。