大会を推進する自治体や観光協会は、開催の正当性として必ず「数十億円から数百億円規模の地域経済効果」をアピールします。しかし、このマラソン経済効果と住民批判の乖離こそが、両者の対立を決定的に深めている構造的要因です。
実際には、マラソンによる経済恩恵を直接享受するのは、大手ホテルチェーン、旅行代理店、そして駅周辺のごく一部の飲食店や大手スポンサー企業に限られます。一方で、コース沿道にある一般の個人商店やロードサイド店舗、日曜日が稼ぎ時であるタクシー業界や配送業者は、通行止めによって売上が激減し、事実上の営業休止状態に追い込まれます。つまり、「一部の事業者が潤う裏で、沿道の地域住民とローカル事業者が純粋な損失を肩代わりしている」というゼロサムゲームが成立してしまっているのです。
また、ネット上では「たった年に1日のことなのだから我慢すべきだ」というランナー側の擁護論が散見されますが、これも大きな誤解を生んでいます。大都市圏では春と秋にそれぞれ異なるマラソン大会や駅伝、自転車ロードレースが開催され、年間に何度も生活動線を断ち切られるエリアが存在します。「年に1日」ではなく「毎シーズン繰り返される権利侵害」として住民側は捉えており、この認知のギャップが互いの歩み寄りを阻んでいます。