本来の音と乖離した「ボジョレー」が、なぜこれほど強固に国民的フレーズとなったのか。その立役者は、日本におけるワイン文化の牽引役を果たしたサントリーの輸入マーケティングにあります。
1970年代から1980年代にかけて、サントリーが大手生産者ジョルジュ・デュブッフ社と提携して新酒の輸入を本格化させた際、一般消費者が店頭で注文しやすく、テレビCMや新聞広告でリズムよく耳に残るフレーズとして「サントリー ジョルジュ デュブッフ ボジョレー ヌーヴォー」の名称が意図的に選定されました。当時の日本においてワインは依然として高級で敷居の高い飲み物であり、フランス語本来の発音である「ボージョレ」は、やや気取った印象を与えかねないという懸念が存在したとされます。
バブル経済の熱狂とともにメディアがこぞって取り上げた結果、民放キー局や大手新聞社も「ボジョレー」表記を一斉に採用しました。こうして大衆メディアが形作った巨大な流通言語が、アカデミックな「ボージョレ」を圧倒する形で日常に根付くことになったのです。