名曲として語られる一方で、世間にはいくつかの誤解や見落とされがちな事実が存在します。その最たるものが、「布施明はこの曲の提供を嫌がっていた」という極端な噂です。前述の通り、当初は自身のダイナミックな歌唱スタイルとの親和性に疑問を抱いていたものの、歌い込むにつれて詞の深さに魅了され、自らのボーカルスタイルを劇的に進化させる契機となったと本人が明確に証言しています。
また、『シクラメンのかほり』は布施明だけの専売特許に留まらず、数多くのトップアーティストによってカバーされ、それぞれ異なる解釈が施されてきました。
- 小椋佳(セルフカバー):作者本人によるテイクは、布施明の劇的な歌唱とは対照的に、語り部のように穏やかで枯淡の境地を感じさせるフォークスタイル。
- 石川さゆり:演歌の情緒と繊細な情念を忍ばせ、女性目線からの切なさを浮き彫りにしたカバー。
- 美空ひばり:昭和の歌姫ならではの規格外の包容力と完璧なフレージングで、スタンダードナンバーとしての格調を高めた名演。
- 德永英明:ハスキーなハイトーンボイスで壊れそうな男心の脆さを強調し、現代的バラードとして再構築。
どのカバーにおいても、メロディの美しさと歌詞の文学的骨格が揺るがないからこそ、歌い手の個性を引き出す器として機能しています。