紅茶を美味しく淹れるプロセスにおいて、専門家が最も強調するのが「ジャンピング」という現象である。ジャンピングとは、熱湯の中で茶葉が浮き沈みを繰り返しながらゆっくりと開いていく対流運動を指す。
なぜジャンピングが必要なのか。その理由は、茶葉がお湯の中で立体的に運動することで、葉の内部に閉じ込められていたエキスと香気成分が均一に熱湯へ溶け出すからである。そして、この現象を起こすための最大の鍵が「水に含まれる空気(溶存酸素)」だ。
ここで重要なのが、紅茶における水道水・軟水の選び方である。日本の水道水は世界的に見ても硬度が低く(平均50〜60mg/L程度の軟水)、紅茶の繊細な風味を邪魔しないミネラルバランスを誇る。さらに、蛇口から勢いよく出したばかりの「汲みたての水道水」には微小な空気の粒が大量に含まれている。この空気が茶葉の表面に付着して浮力を与え、気泡が弾けると自重で沈むという反復運動を生み出す。
一方、市販のミネラルウォーター(特にヨーロッパ産の硬水)やペットボトルの水、電気ケトルに長時間保温されていた湯は、酸素が極めて少ない。酸素が不足したお湯に茶葉を入れると、茶葉は対流することなくポットの底に沈んだままとなり、香りの広がりが著しく損なわれてしまう。
あわせて欠かせないのが、ティーポットを温める理由の理解である。冷えた陶器やガラスのポットに100℃の熱湯を注ぐと、容器自体に熱を奪われ、湯温は一瞬で85〜90℃付近まで急降下してしまう。抽出前にあらかじめ少量の熱湯を注いでポットとカップ全体を予熱しておくことは、ジャンピングを継続させる100℃近い高温状態をキープするための必須工程なのだ。