SNSや大手知恵袋などのコミュニティを分析すると、「吊るしのスーツを買ったら袖が長すぎて手が半分隠れる」「ショップ店員に勧められたサイズなのに、写真で見返したら袖が余っていて恥ずかしかった」という失敗談が山のように投稿されています。
なぜ、市販の既製スーツやセレクトショップのジャケットは、一般人にとって袖が長めに感じられるのでしょうか。老舗テーラーの熟練職人や大手アパレル企画の現場を取材すると、明確なアパレル業界の設計思想が浮かび上がってきます。
「既製服のパターン設計では、『大は小を兼ねる』が鉄則です。袖丈は後から切って短く(詰める)することは容易ですが、縫い代の限界があるため、長く伸ばす(出す)ことはせいぜい1.5〜2cm程度しかできません。あらゆる腕の長さの顧客をカバーして販売機会ロスを防ぐため、既製服はあらかじめ標準より1〜2cm長めの設定で工場から出荷されているのです」
つまり、既製品のジャケットを「お直しなし」で着用できる人は、腕が非常に長いごく一部の体型に限られます。店頭のフィッティングで「肩幅と胸囲が合っているから大丈夫」と店員に言われたとしても、袖丈の微調整を省いてそのまま持ち帰る行為は、自らスタイリングの崩壊を招いているのと同義なのです。