Web検索で「本態性振戦 治った」と調べる方の多くが求めているのは、「風邪のように原因が根絶され、何もしなくても二度と手が震えなくなる状態」かもしれません。しかし、神経内科学的な観点から厳密に申し上げると、本態性振戦における完全な原因根絶、いわゆる本態性振戦の完治をもたらす治療法は現時点では確立されていません。
本疾患は、脳内の小脳から視床、大脳皮質へと至る神経ネットワークの異常興奮が引き金となり、運動の制御リズムが狂うことで発生します。原因遺伝子の解明や環境因子の研究は進展しているものの、加齢とともに緩徐に進行する傾向があり、本態性振戦の自然治癒の可能性は臨床統計上、ほぼゼロに近いのが冷徹な事実です。
では、なぜ「治った」と語る人々が実在するのでしょうか。その背景には、「生活に支障のないレベルまで震えを封じ込めることに成功した」という劇的な機能回復があります。文字が綺麗に書けるようになった、スープをこぼさずに口へ運べるようになったという当事者にとって、それは主観的に「治った」と表現するに値する体験です。医学用語としての完治と、患者本人の体感としての寛解・機能正常化。このギャップを正しく理解することが、根拠のない民間療法に惑わされないための第一歩となります。