インターネット上にはびこる耳抜き関連の情報には、医学的に極めて危険な誤解が紛れ込んでいます。その最たるものが、「痛くても思い切り息を吹き込んで耳を通せ」という間違った指導です。
バルサルバ法(鼻をつまんで息を吹き込む方法)の致命的な罠
ダイビングや航空機内で知られる「バルサルバ法」ですが、耳が激しく痛んでいる最中や着陸後に力任せに行うのは絶対禁忌です。すでに中耳腔が強い陰圧になり、鼓膜が限界まで伸展・充血している状態で、肺から強烈な圧力を鼻腔経由で送り込むと、以下のような大事故を引き起こします。
- 鼓膜の急性破裂(鼓膜穿孔):限界を超えた内圧の急激な衝突により、弱った鼓膜が破裂して強い痛みと出血を招く。
- 内耳窓の破裂(外リンパ瘻):中耳と内耳を隔てる薄い膜(前庭窓・蝸牛窓)が破れ、内耳のリンパ液が漏れ出す。激しい回転性めまい、吐き気、重度の感音難聴が生じ、緊急手術が必要になる恐れがある。
- 鼻咽腔細菌の強制圧入:風邪や鼻炎のウイルス・細菌を含んだ鼻汁を、圧力によって中耳腔内へダイレクトに押し込んでしまい、化膿性(細菌性)中耳炎を併発させる。
安全なバルサルバ法の正しいやり方
バルサルバ法を行ってよいのは、「痛みが出る前の違和感の段階」かつ「鼻をきれいに噛んだ後」に限られます。正しい手順は以下の通りです。
- 事前に軽く鼻をかみ、鼻腔内の分泌物を取り除いておく。
- 親指と人差し指で小鼻を完全に密閉するようにしっかりつまむ。
- 口を固く閉じ、頬を膨らませずに、胸郭の力で「フン」と優しく1〜2秒だけ息を鼻の奥へ送り込む(力む強さは、ティッシュを1枚鼻息で揺らす程度の微圧から徐々に調整する)。
- 耳の中で「ペコッ」「コクッ」と微小な音がしたら即座に息を止め、唾液を一度ゴクンと飲み込む。
絶対に5秒以上連続していきみ続けたり、顔が真っ赤になるほど圧力をかけてはなりません。1〜2回優しく試して通気しない場合は、耳管粘膜が腫れて物理的に塞がっている証拠ですので、それ以上の試行は即座に中止してください。
市販の鎮痛薬の適切な使い方と注意点
降機後の耳痛を抑える応急処置として、ロキソプロフェンナトリウム水和物(ロキソニンなど)やイブプロフェン、アセトアミノフェンといった経口消炎鎮痛薬の服用は非常に有効です。中耳粘膜のプロスタグランジン産生を抑え、局所の腫れと痛みの悪循環を一時的に緩和してくれます。
ただし、鎮痛薬はあくまで対症療法に過ぎません。「薬を飲んで痛みが引いたから治った」と錯覚し、そのまま放置して中耳に浸出液が溜まり続けると、難聴が固定化する原因になります。また、市販の「点耳薬(外耳炎用など)」を勝手に耳の穴へ注ぎ込む行為は厳禁です。万が一鼓膜に微小な穴が開いていた場合、薬剤が内耳へ直接流入して激しい難聴やめまいを引き起こす危険性があります。