北アイルランド紛争は、メディアなどでしばしば「カトリックとプロテスタントの宗教対立」と表現されます。しかし、教義の違いそのものが争われたわけではありません。対立の根底にあるのは、「自らをどの国家の国民とみなすか」というアイデンティティと主権の争いです。
この地域に暮らす人々は、大きく2つの陣営に分かれて対立してきました。
1つ目は、主としてプロテスタント系住民で構成される「ユニオニスト(連合維持派)」または強硬派の「ロイヤリスト」です。彼らは17世紀以降にスコットランドやイングランドから入植したプロテスタントの子孫が多く、イギリス(連合王国)の一部であり続けることを強く望んでいます。
2つ目は、主としてカトリック系住民で構成される「ナショナリスト(民族派)」または強硬派の「リパブリカン(共和派)」です。彼らはアイルランド島の先住系住民であり、イギリスからの離脱と「南北アイルランドの統一」を掲げています。
20世紀初頭にアイルランドがイギリスから独立を果たした際、プロテスタント住民が多数派を占める北部6州のみがイギリス領として残されました。こうして誕生した北アイルランドでは、多数派のプロテスタント側が政治・経済・警察の要職を独占し、少数派となったカトリック住民に対する住宅配分や就職機会での激しい構造的差別が常態化しました。この不公正に対する鬱積した怒りが、のちの大衝突を引き起こす導火線となったのです。