『ゴールデンカムイ』の読者が「文字を追っても理解が追いつかない」、アニメ視聴者が「字幕なしでは聞き取れない」と感じるのには、明確な歴史的・言語学的理由が存在します。
薩摩弁(鹿児島方言)は、語尾の母音が脱落したり促音(っ)に変化したりする音韻変化が非常に激しい特徴を持ちます。さらに、「おはん(あなた)」「わい(お前)」「あたい(私)」「もんど(〜してしまう)」といった独自語彙が多用されるため、他地域の人間にとっては単語の区切りすら判別できません。
この極端な難解さは、かつて薩摩藩が他藩からの間諜(スパイ)を防ぐために意図的に方言を複雑化・温存させた防諜対策の名残とも言われています。事実、太平洋戦争時の旧日本軍では、通信傍受を防ぐための生きた暗号として薩摩弁の使い手が前線と司令部の無線通信に配置されたという史実が残っています。機械暗号すら解読した連合国軍でも、薩摩弁による会話通信だけは最後まで解読不能だったという逸話があるほどです。
劇中で杉元やアシㇼパ、白石らが鯉登少尉の言葉に呆然とする描写はギャグとして描かれていますが、軍事・歴史の観点から見れば極めてリアルな描写と言えます。