マルチバース、カンフー、荒唐無稽なギャグ、そして家族の再生。これまでのアカデミー賞の常識では「オスカー好み」とされなかったジャンル映画が、なぜエブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 7冠という圧倒的な結果を残せたのでしょうか。その背景には3つの明確な要因があります。
第1に、映画芸術科学アカデミー(AMPAS)の会員構成のグローバル化・若返りです。かつて白人・高齢男性が中心だった会員層に、近年アジア系を含む有色人種や若手クリエイターが大量に加わりました。この世代交代が、デジタルカルチャーやスピード感あふれる編集手法への正当な評価につながりました。
第2に、物語の根底にある「普遍的な家族愛と虚無主義への抵抗」が多くの共感を呼んだ点です。破天荒なビジュアルの裏で描かれるのは、移民第1世代の母と第2世代の娘による世代間ギャップや、崩壊寸前の夫婦関係の修復でした。分断が進む現代社会において「たとえ無意味な世界であっても、互いに優しくありたい」というメッセージが、批評家と一般観客双方の心を揺さぶりました。
第3に、配給スタジオ「A24」の卓越したプロモーション戦略が挙げられます。前年の全米公開から時間をかけて口コミを広げ、前哨戦となる各映画賞を総なめにして授賞式当日に熱量のピークを合わせる戦略が見事に結実しました。
ネット上の反応や映画ファンの評価では「カオスに見えてラストで涙が止まらなかった」「映画表現の限界を広げた傑作」と絶賛される一方、「ノリについていけなかった」「下品な描写が好みを分ける」といった賛否両論も巻き起こりました。しかし、その議論の熱さそのものが、本作が単なる娯楽作を超えたエポックメイキングな作品である証左です。