伊藤淳二氏に対する世間の評価が現在も真っ二つに分かれる最大の理由は、後に起きたカネボウの経営破綻と巨大粉飾決算にあります。「中興の祖」として企業を救った英雄であると同時に、同社を破滅へと導いた元凶としても名が挙げられるという、極めて複雑な評価を背負っているのです。
評価が二分する背景には、以下の対照的な「功」と「罪」が存在します。
1990年代のバブル崩壊以降、祖業である繊維事業の赤字は膨らみ続け、化粧品事業が生み出す利益を食いつぶしていきました。本来であれば早期に不採算事業を切り離す構造改革が必要でしたが、「雇用を守る」「事業を捨てない」という伊藤氏の理念と強大すぎる権力が仇となり、痛みを伴うリストラが決断できませんでした。
その結果、赤字を隠蔽するための粉飾決算が常態化し、2004年に産業再生機構の管理下に入って事実上倒産。化粧品事業は花王へ売却され、残された事業は「クラシエ」として再出発することになりました。名門崩壊の真相は、かつて成功をもたらした「カリスマ経営と雇用絶対主義」が、時代の変化に適応できずガバナンス不全を引き起こした点にあったといえます。