八百万の神々が疲れを癒やす巨大な湯屋「油屋」。その外観や内部構造の着想源として、スタジオジブリ公式からも名が挙げられているのが、愛媛県松山市にある「道後温泉本館」だ。
木造幾重にも重なる重厚な階層構造、天辺に鎮座する振鷺閣(しんろかく)の存在感は、まさに油屋そのもの。保存修理工事を経てその壮麗な姿を完全に取り戻した本館を仰ぎ見ると、どこからか釜爺のボイラーの音が聞こえてきそうな錯覚に陥る。宮崎駿監督をはじめとする制作スタッフが、スケッチや構想段階でこの歴史的建造物から多大なインスピレーションを受けたことは広く知られている。
一方で、千尋がハクに促されて息を止めて渡る「赤い橋」のモデルとしてファンを惹きつけてやまないのが、群馬県・四万温泉に位置する「積善館」だ。本館へと続く赤塗りの「慶雲橋」は、緑豊かな山あいの中で強烈な色彩を放つ。元禄4年(1691年)に建てられた日本最古の木造湯宿建築であり、橋を渡る一歩ごとに現実から幻想世界へと引き込まれる感覚を味わえる。