NHK連続テレビ小説『なつぞら』において、渡辺麻友さんが演じたのは、東洋動画の作画課に所属するアニメーター・三村茜(結婚後は下山茜)でした。ヒロインのなつ(広瀬すずさん)と同期入社であり、繊細で精緻な原画を描く実力派でありながら、控えめで温和な人柄という難役です。初登場時、視聴者の度肝を抜いたのは、丸メガネにおかっぱ頭という徹底して質素なビジュアルでした。
AKB48時代に「CGアイドル」「アイドルサイボーグ」と称されるほど完璧なビジュアルコントロールを誇った彼女が、その偶像性を一切かなぐり捨ててフレームの中に立っていました。作画机に向かって黙々と鉛筆を走らせる背中、同僚の会話に控えめに相槌を打つ声のトーン、メガネの奥から覗く真剣な眼差し――そこには国民的アイドルだった面影はなく、昭和の制作スタジオに実在したであろう「職人アニメーター」のリアリティだけが存在していました。
物語の中盤における重要なトピックが、版権部門の下山克己(演:川島明さん)との職場結婚です。当時の時代背景として、女性は結婚や出産を機に退職するのが常識とされていたアニメーション業界において、茜は妊娠・出産を経ても筆を折らず、会社と交渉しながら職場復帰を果たします。この展開は、現代の共働き・育児両立問題にも通じる社会的テーマであり、渡辺麻友さんは「妻であり母であり、何より一人のクリエイターである女性」の静かな葛藤と矜持を、余計な誇張のないリアルな演技で見事に表現し切りました。