本作のメガホンをとったのは、『心中天網島』や『乾いた花』などで日本ヌーヴェルヴァーグを牽引した篠田正浩監督です。篠田監督は阿久悠の原作が持つ土着的な生命力と、ノスタルジックな戦後史の明暗を見事に融合させました。さらに、夏目雅子を支える共演陣には、現在では日本映画界の重鎮となっている錚々たる顔ぶれが名を連ねています。
特に特筆すべきは、戦死したはずが生還した駒子の夫の弟・鉄男役を演じた渡辺謙の存在です。当時20代前半だった渡辺謙は、本作が本格的な映画デビュー作となりました。進駐軍の車を奪って暴走し、戦後社会の歪みに抗う血気盛んな青年を圧倒的な存在感で演じ切り、その後の世界的スターへの足がかりを築いた瞬間が記録されています。
また、戦傷で片足を失いながらも奇跡的に復帰する夫・正夫役を郷ひろみが好演し、波止場宿の女将を演じた篠田監督の妻・岩下志麻が作品の陰影を深めました。子どもたちの中心となる竜太役を演じた山内圭哉をはじめとする少年たちの生き生きとした芝居は、名優たちの真剣勝負に支えられて生まれたものです。