ダチョウ倶楽部を語る上で欠かせないのが、熱湯風呂やおでん芸の直前に必ず炸裂する「押すなよ、絶対に押すなよ!」という黄金のフレーズです。この言葉は、日本のエンターテインメント史において最も完成された「前フリ」として定着しました。
心理学には、禁止されればされるほど逆にその行為をやってみたくなる「カリギュラ効果」という法則があります。上島さんが必死の形相で「絶対に押すな」と懇願するとき、視聴者や共演者の心理には「押してほしい」「落としてほしい」という期待値が最大まで膨れ上がります。この心理的緊張が極限に達した瞬間に背中を押され、湯の中に落ち、あるいは熱々のおでんを顔面に食らうことで、張り詰めた緊張が一気に笑いへと転化するのです。
これは、芸人と観客との間に結ばれた「暗黙の契約関係」でもありました。上島さんは自らの身体的プライドを完全に投げ捨て、ピエロになることで日本中の誰もが安心して笑える空間を作り出しました。日常のストレスや鬱屈を抱えた視聴者は、「予定調和が最高峰の技術で裏切られずに実行される快感」に酔いしれていたと言えます。