実務上の序列以上に複雑なのが、両組織のトップに座る権力者の「階級」をめぐる特異な制度設計です。
警察組織には巡査から警視総監まで9つの「警察階級一覧」が存在します。このピラミッドの頂点に君臨するのは、警視庁のトップである警視総監(階級第1位)です。世界中を見渡しても単一都市の警察本部長に専用の最高階級が与えられている例は珍しく、首都・東京の治安を守る重責を象徴しています。
一方、全国の頂点であるはずの警察庁長官には階級がありません。これがいわゆる「警察庁長官階級外理由」です。戦後、警察法が改正された際、警察庁長官は警察官という身分であると同時に、警察行政全般を統括する国家行政機関の長として規定されました。全国の警察官階級ピラミッドの枠組みに組み込まれてしまうと、法益・文民統制の観点から行政執行機関としての客観的な指導権が阻害されるおそれがあるため、あえて「階級の外」に置かれているのです。
官僚としての給与を決める「指定職俸給表」では、警察庁長官と警視総監はともに最高ランクの「8号俸(中央省庁の事務次官と同等)」に指定されており、給与や格式の上では完全に同格です。過去の人事史を辿ると、警察庁ナンバー2の警察庁次長を務めたキャリア官僚が警視総監に就任し、そこから警察庁長官へ昇り詰める登竜門ルートも存在しました。法と組織規程上は長官が上位でありながら、現場4万人を掌握する総監も決して頭を下げない独特の緊張関係が、霞が関と桜田門の間には古くから流れています。