なぜ文字を消せば減ってしまう道具に、これほどの最高額がつくのでしょうか。取材を進めると、単なるブランドネームの誇示にとどまらない、3つの構造的理由が浮き彫りになりました。
第1の理由は、原材料の精製コストと特殊な製法です。量産型のプラスチック消しゴムは石油由来原料を押出成形して大量生産できますが、シードのスーパーゴールドに代表される天然ゴム消しゴムは、樹液の採取から不純物の徹底除去、硫黄を加えて弾性を生み出す加硫工程まで、熟練職人による長期の温度管理と熟成期間を要します。歩留まりが悪く、大量生産が効かない構造が原価を押し上げています。
第2の理由は、貴金属加工と装飾技術です。ファーバーカステルのモデルに代表されるように、金属部分には貴金属ジュエリーと同水準の研磨、プラチナコーティング、シルバー925(スターリングシルバー)が惜しみなく投入されています。金属の腐食を防ぎ、経年変化を愉しむための表面処理は高級時計の製造ラインにも匹敵します。
第3の理由は、「儚(はかな)さ」を愛でる心理的価値です。美術品や時計とは異なり、消しゴムは使うほどに摩耗し、形状が失われていきます。経済学でいう「顕示的消費(ヴェブレン効果)」を超え、「形ある高額なものが消えていくプロセスそのものを贅沢として味わう」という究極の精神的充足感が、富裕層や文具コレクターを惹きつけてやみません。