「あの声優のような深みのある低音は、生まれ持った声帯が長い人だけの特権だ」という言説は、音声解剖学の観点から見れば半分正しく、半分は誤りである。確かに声帯の物理的な長さや厚みによって基本的な音高(ピッチ)の上限・下限はある程度規定される。だが、人間が耳で聞いて「心地よい」「色気がある」「説得力がある」と感じるイケボの特徴と理由は、単なる物理的な音の低さにとどまらない。
日本音響学会などの音響解析データによれば、人が魅力的だと知覚する声には共通して「2.5kHzから3.5kHz付近の倍音(シンガーズフォルマント)」と「適度な息漏れのなさ(声帯閉鎖の安定度)」が含まれている。これらは声帯そのもののサイズではなく、声帯周辺の筋肉の使い方や、咽頭腔・口腔・鼻腔といった共鳴腔の使い方によって劇的に変化する要素である。
つまり、喉の力みを排除し、息のスピードをコントロールしながら声帯を効率よく振動させることができれば、地声が高めの男性であっても十分に厚みと深みのあるトーンを構築できる。生まれつきを言い訳にして諦める必要は一切ない。