芸者コントが産声を上げたのは、フジテレビ系列の伝説的冠番組『志村けんのだいじょうぶだぁ』(1987年〜1993年レギュラー放送)でした。その後、特別番組や『志村けんのバカ殿様』の中でもアレンジされ、長年にわたって親しまれる定番シリーズへと成長します。
このコントが生まれた背景には、志村けんさんの演劇に対する並々ならぬ敬意と探求心がありました。1976年に「劇団東京乾電池」を結成し、アングラ演劇界で唯一無二の怪演を見せていた実力派俳優の柄本明さんに対し、志村さんが熱烈なラブコールを送ったことからすべてが始まります。
当時、バラエティ番組に本格的な舞台俳優が継続して出演し、本格的なコントを演じることは極めて異例でした。志村さんは、柄本さんが持つ「日常と狂気のあわい」を漂わせる独特の存在感と、何を考えているのか読めない表情に惚れ込んでいました。元ネタとなったのは、落語の長屋話や花柳界の裏側を描いた古典的な笑い、そして昭和の映画に見られた芸者たちのリアルな倦怠感です。派手なドタバタ劇ではなく、火鉢を囲んでタバコを吸い、化粧を直しながらボソボソと喋るという、徹底してミニマルな舞台装置からこの傑作は立ち上がりました。