『久米宏 ラジオなんですけど』を語る上で欠かせないのが、スタジオ内で繰り広げられたアシスタントとのスリリングなやり取りです。特に長年パートナーを務めた元TBSアナウンサー・堀井美香さんとのコンビネーションは、リスナーの間で語り草となっています。
ネット掲示板やSNSでは、生放送中に久米さんが放った「堀井さん、君との会話は全部かみ合わないね」という発言を切り取り、「アシスタントいじめではないか」「不仲によるパワハラではないか」と騒ぎ立てる声が一部にありました。しかし、このエピソードの裏側には、久米宏ならではのプロフェッショナリズムが潜んでいました。
番組制作に携わったチーフディレクターの手記によれば、久米さんは生放送前の打ち合わせを極度に嫌い、アシスタントと事前にトークの流れをすり合わせることを頑なに拒否していました。テレビや既存のラジオに蔓延する「段取り通りの相づち」や「予定調和の仲良しごっこ」を毛嫌いしていたためです。「かみ合わない」という発言は、型通りの優等生トークを打破し、相手の素の知性や本音を引き出すための「生放送上の公開スパーリング」でした。
堀井美香さん自身も後年の対談で「久米さんは毎回、私をアナウンサーという安全地帯から力ずくで引きずり出し、一人の人間として立たせてくれた」と述懐しています。堀井さんの後を引き継いだ林みなほさんら歴代アシスタントに対しても、久米さんは常に敬意を払いながら、プロの表現者としての真剣勝負を要求し続けました。不仲説は的外れであり、冷徹なまでのプロ意識が生んだ信頼関係の証だったのです。