この事件を理解する上で、まず把握すべきはバージン諸島におけるエプスタイン島の場所と、その地理的密室性です。リトル・セント・ジェームズ島は、カリブ海に浮かぶ米領バージン諸島の中心地セント・トーマス島から南東へ約3キロメートル沖合に位置しています。広さは約70〜78エーカー(約30万平方メートル)、東京ドーム約6個分に相当する小島です。外部からの視線を完全に遮断できるこの絶海の土地を、エプスタインは1998年に約795万ドルで取得しました。
ウォール街で巨額の資産を動かす謎のフィナンシェとして頭角を現したジェフリー・エプスタインは、この島に豪邸、プール、ヘリポート、プライベートドックを整備。「プライベートな楽園」として整備されたこの場所へ、通称「ロリータ・エクスプレス」と呼ばれたプライベートジェット機(ボーイング727)を使って、世界中のVIPと、言葉巧みに集められた少女たちを次々と運び込みました。
公判記録が示すジェフリー・エプスタイン事件の真相は、富と名声を利用した組織的な児童買春および性的人身取引ネットワークの構築です。2008年、フロリダ州で最初の捜査網が狭まった際、エプスタインは連邦検察との間で異例とも言える極めて寛大な「不起訴合意(司法取引)」を締結。わずか13カ月の禁錮刑(しかも週6日は私設事務所へ通うことが許された労働猶予付き)で幕引きを図りました。しかし、被害女性たちの勇気ある実名告発と地元紙『マイアミ・ヘラルド』による徹底した調査報道が、一度は葬り去られた暗部を白日の下に引き戻しました。
2019年7月、米連邦捜査局(FBI)は性的人身取引の罪でエプスタインを再逮捕。しかし翌月8月、ニューヨークの連邦拘置所内でエプスタインは首を吊った状態で発見され、66歳で死亡しました。検視当局は自殺と断定したものの、監視カメラの不具合や看守の職務怠慢といった異常事態が重なっていたことから、真相の隠蔽を疑う声が世界中で巻き起こることとなったのです。