トリミング後の愛犬を見て「まるで食パンのようになった」「アザラシのように顔周りが平らになってしまった」という嘆きは、SNSや相談コミュニティで頻繁に見受けられます。取材に応じた都内トップサロンのオーナートリマーは、「オーダーの不一致によるトラブル相談は年々増加傾向にある」と語ります。なぜビションフリーゼのカットでは、これほどまでに理想と現実のギャップが生じやすいのでしょうか。背景には構造的な3つの要因が存在します。
最大の理由は、「トイプードルとの毛質の違いに対する無理解」です。同じ巻き毛であっても、シングルコートのトイプードルに対し、ビションフリーゼは剛毛のオーバーコート(上毛)と極めて密生したアンダーコート(下毛)を持つダブルコートです。下毛が綿のように上毛を支えることで初めて独特の立ち上がりとボリュームが生まれます。しかし、下毛が十分に生え揃っていない時期にボリューム感を求めたり、プードル用の軽やかなデザインをそのまま当てはめようとすると、毛が寝てしまったり割れたりして不恰好な仕上がりになります。
次に挙げられるのが、「骨格と毛密度の個体差」を無視した写真オーダーです。SNSで見かけるインフルエンサードッグの多くは、ドッグショー血統の極めて毛量の多い成犬であり、撮影直前にプロがブローで完璧に立毛させた瞬間を切り取っています。実際にはマズル(鼻口部)の長さ、耳の付き位置、頭骨の丸み、毛の硬さは一頭ごとに大きく異なります。「この写真の通りにしてください」と一枚の写真だけを見せても、骨格が異なれば物理的に同じシルエットを再現することは不可能です。
さらに、「トリマー側のハサミ技術(シザーリング)の格差」も決定的な要因です。ビションフリーゼのカットはバリカンで大半を削るスタイルと異なり、全身を立体的な曲面で構成する高度なオールシザー技術が試されます。犬種特性を深く理解し、日常的にビションを切り慣れているトリマーと、一般的な小型犬を中心に扱うサロンとでは、仕上がりの丸みや持続力に歴然とした差が生じるのが実情です。