神谷明のキャリアを語る上で避けて通れないのが、1980年代に週刊少年ジャンプ黄金期を支えた3大ヒーローの演じ分けです。同一の声優が、同時期にこれほど作風の異なる国民的メガヒット作の主役を歴任した事例は、アニメ史全体を見渡しても極めて異例です。
キン肉マンの収録では、過呼吸寸前になりながら全身を使ったアドリブを炸裂させ、翌日の北斗の拳の収録では、喉を限界まで研ぎ澄まして「お前はもう死んでいる」の決め台詞と猛烈な怪鳥音を叩き込む。そして週末にはシティーハンターで冴羽獠の「もっこり」とハードボイルドな銃撃戦を演じ分けるという、人間離れしたスケジュールを長年にわたり維持しました。
この驚異的な振り幅について、業界内からは「声の七色変化ではなく、魂の入れ替え」と称賛されました。単なる声質の変化ではなく、それぞれのキャラクターのバックボーンを深く考察し、息遣いひとつに至るまで感情の根拠を突き詰める姿勢が、昭和から令和に至るまで色褪せない名演を生み出す源泉となったのです。