相撲界における長年の制度改革の中で、親方のキャリア形成に大きな変化をもたらしたのが「親方定年再雇用制度」です。日本相撲協会の規定では、親方の定年は満65歳と定められていますが、2014年以降、希望者は「参与」という職階で最長70歳まで協会に残ることが可能になりました。
この再雇用制度により、かつて定年とともに部屋の継承や完全引退を余儀なくされていたベテラン師匠たちが、知恵袋として部屋や協会を支え続けることが可能になりました。例えば、部屋の看板である師匠ポストを後継の若い親方に譲り、自身は参与として若手の基礎指導や部屋の裏方業務を担うケースが増加しています。
当時の特番インタビューや自著・手記で語られた元大関親方の告白には、現場の生々しい実態が記されています。
「現役時代は自分の体と勝利のことだけを考えていればよかったが、親方になった瞬間から、弟子の生活、精神面、将来の就職先まで全責任を背負うことになる。毎朝の稽古場で四股を踏ませる足の角度ひとつにも、その子の人生がかかっている」
SNSやファンのコミュニティ(5ちゃんねる相撲実況板やYahoo!知恵袋など)でも、「花道警備やもぎりで立つ大物親方の物腰が驚くほど柔らかくなった」「昔の鬼のような形相を知っているだけに、笑顔でファンサービスに応じる姿に感動する」といった現場観察の声が多数投稿されています。土俵の鬼から弟子を守る父親役へ、そして協会の顔としての接客役へ――親方たちの精神的変遷は、大相撲の大きな魅力となっています。