日本中を旅するテキ屋の寅次郎とは対照的に、俳優・渥美清が生活の拠点としていたのは東京都目黒区五本木の高級住宅街でした。東急東横線の祐天寺駅や学芸大学駅からほど近いこのエリアは、都心へのアクセスが良好でありながら、大通りの喧騒から一本入ると静かな街並みが広がる邸宅地として知られています。
周囲を取り囲む高い塀と重厚な門構えを持つ邸宅は、敷地面積も広く落ち着いた佇まいを見せていました。しかし、外見から大スターの住まいであることを誇示するような華美な装飾は一切なく、表札に刻まれていたのは芸名ではなく本名の「田所康雄」に由来する「田所」の文字だけでした。
近隣住民の間では「田所さんのお宅」として認知されており、町内で行き交う際も過度に干渉しないことが暗黙の了解となっていました。近所の商店にふらりと現れる際も物静かで礼儀正しく、画面の中で見せる威勢のいい寅さんとはまったく異なる、穏やかな紳士としての顔を見せていたと伝えられています。