日本国内で最も広く認知されているプロドラッグの筆頭が、第一三共が創製した非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)のロキソプロフェンナトリウム水和物(商品名:ロキソニン)です。
なぜ、ロキソニンはプロドラッグとして設計されたのでしょうか。その最大の理由は、「胃粘膜障害というNSAIDs特有の最大の弱点を克服し、副作用軽減を達成するため」に他なりません。
従来の解熱鎮痛薬(アスピリンやインドメタシンなど)は、胃に到達した瞬間、胃粘膜に対して直接的な化学的刺激を与えて細胞を傷つけます。さらに、胃粘膜を保護するプロスタグランジンという物質の合成を強力に阻害するため、胃酸が自らの胃壁を溶かしてしまい、重篤な胃潰瘍を引き起こすリスクが常に付きまとっていました。
そこで開発陣は、ロキソプロフェンそのものには炎症や痛みを抑える酵素(COX)の阻害作用をほとんど持たせない構造を採用しました。ロキソニンは胃を通過する際、胃粘膜を直接刺激しません。胃を傷つけることなく通過して小腸で速やかに吸収され、血流に乗って肝臓に運ばれて初めて、酵素「カルボニル還元酵素」の働きによって活性代謝物(トランス-OH体)へと生体内変換されます。この活性代謝物が患部に到達し、痛みの元凶であるプロスタグランジンの発生をシャットアウトするのです。
もちろん、プロドラッグの恩恵はロキソニンだけに留まりません。現代医療のあらゆる領域でプロドラッグが生命線を支えています。
- 抗ウイルス薬(バラシクロビル):ヘルペス治療薬アシクロビルは腸管からの吸収率が約15〜30%と極めて低かったものの、アミノ酸(L-バリン)を結合させてプロドラッグ化した結果、生体利用率は約3倍から5倍(約54%以上)へと劇的に跳ね上がりました。
- 抗生物質(セフジトレン ピボキシルなど):難溶性のセフェム系抗菌薬にピボキシル基を結合させることで、小腸上皮の脂質二重層を通り抜けやすくし、経口での確実な治療を可能にしました。
- 抗がん剤(カペシタビン):従来の5-FUは全身に激しい消化器毒性や骨髄抑制をもたらしましたが、カペシタビンは腫瘍組織内に高発現している酵素(チミジンホスホリラーゼ)を利用し、「がん細胞の内部でピンポイントに抗がん成分へ変化する」よう3段階の代謝プロセスが組み込まれています。