「苗を買ってきて毎日せっせと水をやり、肥料も与えているのに、まったく結実しない」。あるいは「ようやく実った果実を冷やして食べたが、甘みがなく水っぽくてガッカリした」。園芸相談の現場に寄せられるこうした悲鳴には、明確な植物生理学的根拠が存在します。
実がつかない第一の理由は、メロン特有の着果習性を無視した親づるの放任栽培(つるボケ)です。プリンスメロンをはじめとするウリ科植物は、主枝である「親づる」には雄花ばかりが咲き、果実のもととなる子房を持った雌花はほとんどつきません。目的の雌花は、親づるから分岐した「子づる」、さらにはそこから伸びる「孫づる」の第1節〜第2節に集中的に着生します。初期段階で親づるの生長点を止めずに伸ばし続けると、茎葉ばかりが生い茂る栄養生長へと傾き、雌花が咲かないまま夏を終えることになります。
第二の壁である「受粉の失敗」も見逃せません。都市部の住宅街や高層階のベランダでは、花粉を媒介するミツバチなどの訪花昆虫が飛来する確率は極めて低くなります。さらに、メロンの花粉は気温の上昇とともに急激に活性を失うため、昼過ぎに受粉を行っても受精に至りません。受精が成立しなければ、小さな幼果は肥大することなく黄色く変色し、数日のうちに脱落してしまいます。
一方で、果実が甘くならない最大の原因は、登熟期(収穫前の2週間)における土壌水分の過多と光合成不足にあります。メロンが果実にショ糖や果糖を蓄積するプロセスは、過酷な乾燥ストレスと深い相関関係があります。収穫直前まで頻繁に水やりを続けると、根から吸い上げられた水分によって果汁が薄まり、いわゆる「水ぶくれメロン」となって糖度が10度以下に落ち込みます。また、光合成を担う葉が病気で枯れてしまえば、果実へ送られる同化産物そのものが枯渇するため、絶対に甘くはなりません。