眠気を感じたとき、多くの人が真っ先に手を伸ばすのが運転中眠気覚ましガムフリスクなどの強烈なメントール菓子や、ブラックコーヒー、エナジードリンクでしょう。刺激によって一瞬だけ頭が冴えたように錯覚しますが、この感覚こそが最大の罠です。
咀嚼運動(噛むこと)は、脳の三叉神経を介して網様体賦活系を刺激し、一時的に交感神経を優位にします。しかし、日本睡眠学会所属の専門医らが指摘するように、咀嚼による覚醒作用の持続時間はせいぜい10〜15分程度に過ぎません。味が薄れ、アゴの疲労が蓄積するにつれて刺激への慣れが生じ、脳は再び深い睡眠圧に屈してしまいます。
飲料に含まれるカフェインの効果発現プロセスにも、決定的な時間差が存在します。眠気覚まし飲み物最強と目される濃縮カフェイン飲料やエナジードリンクであっても、胃腸から吸収されて血流に乗り、脳の睡眠物質「アデノシン」の受容体をブロックするまでには、摂取からおよそ30分から60分のタイムラグが必要です。つまり、「今まさに意識が飛びそう」という極限状態においてコーヒーを一気飲みしても、直後の30分間は無防備な状態が続くことになります。
長距離運行を手がける大手運送会社の安全指導員は、自社の運行記録をもとに次のように証言しています。
「事故を起こしたドライバーの車内を調べると、ほぼ例外なく空になったエナジードリンクの缶や噛み終えたガムの包み紙が散乱しています。『ガムを噛んでいたから大丈夫だと思った』『ドリンクを飲んだ直後にフッと意識が消えた』という供述が後を絶ちません。気合や刺激物だけで睡魔をねじ伏せようとすること自体が、すでに判断力を失っている証拠なのです」