この象徴的な仮面の造形は、もともと古代ギリシャ演劇における「喜劇(コメディ)の神タレイア」と「悲劇(トラジディ)の神メルポメネ」を象った劇場用マスク(ソック・アンド・バスキン)に起源を持ちます。西洋美術の世界で2000年以上受け継がれてきた伝統的シンボルが、なぜ現在のような反骨精神あふれるタトゥーデザインへと変化を遂げたのでしょうか。
トゥーフェイスタトゥーの由来と経緯を辿ると、1940年代から1970年代にかけてアメリカ・カリフォルニア州などのバリオ(メキシコ系住民居住区)で形成されたチカーノカルチャーに行き着きます。白人優位社会の中で激しい人種差別や抗争、貧困に直面していたメキシコ系アメリカ人(チカーノ)たちは、刑務所(プリズン)の中で限られた画材や手製のタトゥーマシンを用い、独自のブラックアンドグレータトゥーを発展させました。
彼らは古代の演劇仮面をストリートの文脈へと再構築し、ギャングスタや受刑者たちの過酷な生き様を投影しました。その後、1980年代から1990年代にかけて西海岸のローライダー文化やウエストコースト・ヒップホップ、チカーノラップの隆盛とともに全世界へ拡散。過酷な環境から這い上がるカウンターカルチャーのアイコンとして、不動の地位を確立するに至ったのです。