なぜ従来のワンウェイ(1地点から国技館を目指す直行)ルートではなく、競技場周回という異例の選択が取られたのか。その最大の要因は、2026年8月下旬から列島を縦断した台風10号に伴う記録的豪雨と線状降水帯の発生リスクでした。
当初、警視庁および関係各所の道路使用許可のもとで神奈川県内から東京都内へと抜けるコースが策定されていましたが、ランナーのみならず並走するサポートクルー、沿道に集まる一般観客への倒木・冠水・落雷リスクを考慮し、公道走行の中止が直前に下されました。そこで代替案として採用されたのが、屋根付き観客席と強固な排水設備を備えた日産スタジアム(横浜国際総合競技場)のフィールド内周回です。
しかし、景色が一切変わらない400mトラックを75周走る行為は、通常のロードレース以上にランナーの精神を摩耗させます。元自衛官としての基礎体力を持つやす子さんであっても、同じカーブの連続による関節・筋肉への偏った負荷、閉鎖空間特有のメンタル疲労は想像を絶するものでした。当時の現場証言によると、やす子さんは豪雨の音と湿度のなか、沿道からの直接的な声援がない孤独なトラックで黙々と歩を進めていたと伝えられています。