日本国内で広く処方・販売されているロキソニンSなどのロキソプロフェン製剤は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の代表格です。体内において炎症や痛みの引き金となる生理活性物質「プロスタグランジン(PG)」を生み出す酵素・シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することで、優れた鎮痛・解熱作用を発揮します。しかし、咽頭痛を訴える現場において、患者から「ロキソニンを飲んでもまったく痛みが引かない」という訴えが頻発するのには、病理学的な3つの根本原因が存在します。
第1の理由は、「発熱・痛み物質の抑制」と「物理的な粘膜損傷」の乖離です。ウイルス(ライノウイルス、アデノウイルス、コロナウイルスなど)が上気道に侵入すると、喉の粘膜上皮細胞を急激に破壊します。ロキソニンは神経終末の痛覚受容体を刺激するプロスタグランジンの産生をストップさせますが、すでに剥離してむき出しになった喉の粘膜神経そのものを被覆・修復する作用はありません。酸や唾液がむき出しの神経を刺激し続ける限り、物理的な刺激痛は残り続けます。
第2の理由は、炎症を引き起こしているメディエーター(伝達物質)の種類の違いです。咽頭炎において腫れや充血、局所の浮腫を強力に推し進める主犯格の一つは「プラスミン」や「ブラジキニン」といった体内酵素・ペプチドです。ロキソニンが得意とするプロスタグランジン経路とは別ルートで激しい炎症反応が駆動している場合、NSAIDs単独では炎症の火元を消しきることができません。
第3の理由は、細菌感染による化膿性炎症の存在です。A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染や、扁桃腺の奥深くに白苔(白い膿)がびっしりと付着するような重篤な感染症では、細菌が増殖して強い毒素を放出し続けています。これは適切な抗菌薬(抗生物質)による除菌を施さなければ根本解決せず、市販の鎮痛薬の効力だけで痛みを抑え込むことは極めて困難です。