ひれ酒を成功させるもう一つの絶対条件が、ベースとなる日本酒の選定と温度管理です。普段冷酒で美味しく飲んでいる高価な純米大吟醸や吟醸酒をひれ酒に使うのは、実は最も避けるべき選択肢と言えます。
華やかなフルーツ系の吟醸香(カプロン酸エチルなど)は、炙ったひれの動物性アミノ酸や香ばしいピラジン類と激しく衝突し、互いの長所を打ち消し合ってしまいます。ひれ酒おすすめ日本酒の王道は、香りが穏やかで酸味のキレが良い「辛口の本醸造酒」や、骨太な米の旨みを持つ「すっきり系の純米酒」です。蔵元や銘柄の例を挙げると、沢の鶴の辛口本醸造や朝日酒造の久保田(百寿・紅寿)、辛口の剣菱などが絶妙な相性を見せます。
そして温度設定において妥協は許されません。ひれ酒に求められるのは、通常の熱燗(約50℃)をはるかに凌駕する飛び切り燗の適正温度(75℃〜80℃)です。日本酒のアルコール沸点は約78.3℃ですが、この沸点直前の過熱状態によってのみ、ひれに含まれるゼラチン質(コラーゲン)とイノシン酸、グルタミン酸が短時間で酒の中へと溶け出します。ぬるい温度ではアミノ酸の抽出が進まず、単に生温かい酒に魚の皮を浸しただけの生臭い仕上がりになってしまうのです。