古代ギリシャの歴史家ヘロドトスが残した「エジプトはナイルの賜物(たまもの)」という言葉は、世界史において最も有名な名言の一つです。この言葉が示す通り、ナイル川の存在なしに古代エジプト文明の繁栄はあり得ませんでした。
雨がほとんど降らないサハラ砂漠のただ中にありながら、エジプトが豊かな農業生産を行えたのは、青ナイルがもたらす定期的な洪水のおかげでした。毎年夏になると川が穏やかに氾濫し、上流から運ばれてきたミネラル豊富な黒い土(肥沃土)が沿岸の耕地に堆積します。水が引いた後の肥沃な大地に種をまくだけで、古代の人々は豊富な小麦や大麦を収穫することができました。
洪水の時期を正確に予測する必要性から天文学と太陽暦が発達し、氾濫によって消え去った土地の境界線を正確に引き直すために幾何学や測量術が高度に磨かれました。ナイル川が運ぶ土砂と水が、文字、数学、巨大ピラミッドの建設技術といった高度な文明社会を成立させる原動力となったのです。