アパホテルといえば、ド派手な帽子と笑顔で「私が社長です」とメディアに登場し続ける妻・元谷芙美子氏の姿を思い浮かべる人が大半でしょう。世間一般では「芙美子社長がすべてのワンマン経営を行っている」と誤解されがちですが、実態は全く異なります。
この夫婦関係は、社会学および組織心理学の観点からも極めて合理的な「役割の完全分業体制」でした。外志雄氏がかつて自著やインタビューで語った言葉を振り返ると、その関係性がよくわかります。
「妻は天性のエンターテイナーであり、人に好かれる天才だ。私は冷徹に数字を読み、土地を買い、資金を調達する裏方に徹すればいい。適材適所を家庭内でも実践したに過ぎない」
芙美子氏を広告塔として全面に押し出し、数億円規模の広告効果をタダ同然で獲得する一方で、外志雄氏は「どの交差点のどの角地を買うべきか」「金利が何%上がれば耐えられるか」というハードな不動産・財務戦略をミリ単位で計算していました。家庭内の主導権やエゴを巡って衝突するのではなく、互いの「心理的バウンダリー(境界線)」を厳格に保ち、ビジネス上の利害と愛情を極めて機能的に一致させていた点が、アパ帝国の真の強みでした。
最愛の夫を看取った芙美子社長ですが、現在もアパホテルの象徴としての存在感は衰えておらず、長男・一志氏を支える精神的支柱としてグループの求心力を保ち続けています。