風邪の主症状である発熱や全身倦怠感が消失したにもかかわらず咳だけが長引く現象の多くは、気道の粘膜がウイルスとの戦いによって負った損傷に起因しています。日本呼吸器学会の咳嗽・喀痰に関するガイドラインでも示されている通り、急性上気道炎の後には気道上皮が剥離し、普段は覆われている神経線維(知覚神経のC線維など)が剥き出しになる状態が生じます。これが、医学的に「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」と呼ばれる病態の典型的なメカニズムです。
気道の粘膜が剥き出しになると、通常であれば何の問題にもならないわずかな空気の温度変化、冷たい風、会話時の気流、ハウスダスト、タバコの煙といった些細な刺激に対して気道が過敏に反応し、激しい咳反射が誘発されます。この感染後咳嗽の原因と治し方について整理すると、原因は病原体の残存ではなく「気道修復のタイムラグ」にあります。通常は粘膜の再生とともに数週間かけて自然寛解へ向かいますが、喉の乾燥を防ぎ、刺激物を避けて安静を保つことが回復を早める基本軸となります。
また、症状を見極めるうえで極めて重要な基準が「痰が絡む咳と乾いた咳の違い」です。コンコン、ケンケンという乾いた音がする「乾性咳嗽」は、前述の感染後咳嗽や咳喘息、アレルギー性素因が関与している可能性が高いと判断されます。これに対し、ゴホゴホと湿った音がして黄白色や緑がかった粘調な分泌物を伴う「湿性咳嗽」の場合は、気道内で依然として好中球などの免疫細胞と細菌が戦っている気管支炎や副鼻腔炎の併発を視野に入れなければなりません。