「トヨタには社歌が存在しない」という言説は、事実関係から言えば明確な誤りです。トヨタ自動車株式会社の公式社歌はしっかりと制作され、歴史の中に刻まれています。
歴史を遡ると、1952年(昭和27年)11月3日に「トヨタ自動車工業株式会社 社歌」としてSP盤レコードがプレスされた記録が残っています。当時の日本電装(現デンソー)の社歌『若きいのち』などと並び、戦後復興期における産業人の士気を高める象徴として誕生しました。
現在知られている公式社歌は、作詞を平川憲一郎氏、作曲を日本を代表する大作曲家・團伊玖磨氏が担当しています。團伊玖磨氏といえば、オペラ『夕鶴』や組曲『筑後川』、祝典行進曲などを手掛けたクラシック界の巨匠であり、その旋律は重厚かつ格調高い芸術作品としての品格を備えています。社内組織である「トヨタ自動車株式会社吹奏楽団」(指揮:寺島陽介氏)による公式な演奏記録や音源も存在しており、美しい管弦楽の響きとともに遺されています。
歌詞には「幸せのこの道を」といったフレーズが織り込まれ、人々の移動の自由と豊かな社会の建設を願うモビリティの精神が格調高く歌い上げられています。これほどの超一流陣によって作られた社歌がありながら、なぜ世間はおろか社員の間でも「幻の曲」となっているのでしょうか。