日本国内におけるカスハラ対策の潮目を決定的に変えたのが、法制度と地方自治体の条例制定です。なかでも東京都が全国に先駆けて2024年に成立させ、2025年4月に本格施行した「東京都カスタマーハラスメント防止条例」は、産業界全体に極めて大きなパラダイムシフトをもたらしました。
この条例では、顧客等からの著しい迷惑行為によって就業環境が害されることを「カスハラ」と明確に定義し、何が許されない不法行為であるかを可視化しました。罰則規定こそ設けていないものの、事業者に防止体制の整備を義務付け、顧客側にも責務を明記したことで、「客だからといって何をやっても許される時代は完全に終わった」という強力な社会的メッセージを発信したのです。
東京都の動きに呼応するように、全国の主要自治体でも同様の条例制定が相次ぎました。さらに国政レベルにおいても、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)の枠組みを拡張する形や、単独法としての「カスハラ防止法」の整備が急速に進展しています。厚生労働省のガイドラインでも、従業員を保護するための体制構築を怠った企業に対しては安全配慮義務違反が問われるリスクが示されており、もはや「お客様第一」を口実に従業員を犠牲にする経営手法は法的に許容されない局面に突入しています。