腕神経叢の全体像を把握する第一歩は、首から腋窩(脇の下)へと広がる階層構造を正しく仕分けることです。腕神経叢は、脊髄から出た神経線維が腕の各筋肉へ到達するまでに合流と分岐を繰り返す中継ステーションの役割を果たしています。この階層は中枢側から末梢側へ向かって、根(こん)・幹(かん)・部(ぶ)・束(そく)・枝(し)という5つのブロックに整然と分かれています。
まず「根(Roots)」を構成するのは、第5頸神経から第1胸神経の前枝であるC5、C6、C7、C8、Th1(T1)の5本です。これらが鎖骨の手前で合流し、3本の「幹(Trunks)」を形成します。C5とC6が合流して上幹になり、C7はそのまま単独で中幹となり、C8とTh1が合流して下幹を組織します。
次に、鎖骨の深部を通過するエリアで各幹は前と後ろに分かれ、計6本の「部(Divisions)」を形成します。すなわち、上幹の前部・後部、中幹の前部・後部、下幹の前部・後部です。ここが視覚的に最も混乱しやすい分岐点ですが、「前に行く線維は屈筋群(腕の前側)へ、後ろに行く線維は伸筋群(腕の後ろ側)へ向かう」という解剖学的な大原則さえ押さえれば、無秩序な交差ではないことが分かります。
鎖骨下動脈を取り囲む腋窩の深部では、これらの線維が再び束ねられて3つの「束(Cords)」を構築します。動脈に対する位置関係から、それぞれ外側神経束、後神経束、内側神経束と命名されています。 上幹と中幹の前部が合流して外側神経束を作り、3つの幹すべての後部(上幹後部・中幹後部・下幹後部)が一堂に合流して強大な後神経束を形成します。そして下幹の前部がそのまま内側神経束へと移行します。この3つの束から、腕や手指を動かす主要な末梢神経(枝:Branches)が枝分かれしていきます。