パートナーとの間で最も深刻な摩擦を生むのが、「口腔カンジダは性病(性感染症:STI)ではないのか」という強い誤解です。医療機関の窓口でも「浮気をされたのではないか」「自分は後ろめたい病気に感染したのではないか」と思い詰めて相談に訪れる患者が少なくありません。しかし、病態生理学的に見て、口腔カンジダと性病の違いは明確に区別されています。
梅毒、淋病、クラミジアといった典型的な性病は、体外から侵入する病原微生物によって引き起こされ、感染者の粘膜や体液に触れることで高い確率で感染・成立します。一方、カンジダ症はカンジダ菌と日和見感染というメカニズムで発症する内因性の病態です。普段は無害でおとなしく共生している常在菌が、宿主の生体防御機能の低下や、局所的な環境変化に乗じて異常増殖することで発症に至ります。
日常の臨床現場において、発症の最大の引き金として確認されるのは以下のような要因です。
- 抗菌薬(抗生物質)の長期服用:風邪や抜歯後などに抗生物質を服用すると、口腔内の有益な細菌まで死滅し、抗生物質が効かないカビ(真菌)であるカンジダ菌だけが爆発的に増殖する「菌交代現象」が生じます。
- ステロイド吸入薬の使用:喘息やCOPDの治療で吸入ステロイド薬を使用した後、十分なうがいを行わないと、局所の免疫が抑制されてカンジダ菌が繁殖します。
- 全身性の免疫低下:糖尿病のコントロール不良、悪性腫瘍の治療、副腎皮質ステロイドの内服、過度のダイエットや栄養失調が背景にあるケースです。
ただし、オーラルセックスが介在する場合は少々事情が異なります。口腔カンジダと性器カンジダ(膣カンジダ症や男性のカンジダ性亀頭包皮炎)は同種の菌によって引き起こされるため、オーラルセックスを介して互いの粘膜を行き来する「ピンポン感染」のリスクは否定できません。性病ではないものの、相手への配慮として粘膜症状が出ている期間の性的な接触を控えるべき理由はここにあります。