「つばらつばら」という言葉に出会ったとき、多くの人がその語感から直感的な可愛らしさを抱きます。しかし、大和言葉における「つばらつばら」の意味は、極めて静謐で深い精神性を宿しています。
言語学的な語源・由来を紐解くと、「物事をつぶさに観察する」「詳しく明らかにする」を意味する「つまびらか(詳らか・審らか)」や「つばら」の畳語(言葉を重ねて強調する表現)とされています。現代語に直訳すると、主に以下のニュアンスを持ちます。
- しみじみと、つくづくと(感情を深く噛みしめるさま)
- 心ゆくまで、思う存分に(何かに十分に浸るさま)
- こと細かに、あれこれと(詳細に渡って思いを巡らせるさま)
この表現が日本文学史上でひときわ鮮烈な光を放つのが、奈良時代に編纂された歌集『万葉集』です。とりわけ著名なのが、政治家であり情熱的な歌人でもあった大伴旅人(おおとものたびと)が詠んだ「酒を讃むる歌十三首」の一節です。
「わが盛りの いたづらに過ぎにしことの つばらつばらに 思ほゆるかも」(万葉集 巻3・331)
(現代語訳:自分が若く元気だった全盛期が無為に過ぎ去ってしまったことが、今になってしみじみと、つくづく心に思い出されることよ)
当時、大宰帥(だざいのそち)として九州の大宰府に赴任し、最愛の妻を亡くした失意と老境の孤独の中にあった大伴旅人は、過ぎ去りし日々を「つばらつばら」と振り返りました。単なる後悔ではなく、自らの人生の陰影を「しみじみと余すところなく見つめる」という大和言葉ならではの繊細な情緒が、この言葉には込められています。