陸軍航空士官学校の出身という特異な経歴から、永田町では「軍人」と称された。威圧的な風貌、太い怒声、そして強面なスタイル。だが、内閣官房のスタッフや番記者たちが目撃していた素顔は、恐ろしいほど繊細で情に厚いものだった。危機に際しては誰よりも早く執務室に入り、分厚い資料を隅々まで読み込み、徹底的にロジックを叩き込む。その猛烈な実務能力こそが剛腕の裏付けだった。
夜更け、官房長官室でひとり煙草を燻らせながら、自らの決断が国民生活に与える痛みに思いを巡らせていたという。地元・茨城の支援者からの手紙には自筆で丁寧に返事を書き、泥臭い陳情にも真摯に耳を傾けた。国家の大局を見据える冷徹な戦略眼と、市井の人々に寄り添う温かさ。その二面性の落差こそが、人々を惹きつけてやまない梶山静六という人間の魔力だった。