富山湾の沿岸部が青白い発光で満たされる現象は、地元では古くからホタルイカ身投げとして知られています。普段は水深200〜400メートルほどの深海に生息するホタルイカが、なぜ波打ち際まで大群で押し寄せ、そのまま砂浜に打ち上げられてしまうのか。その身投げ理由には、生殖行動と富山湾特有の地形が深く関係しています。
富山湾に春先押し寄せる群れのほぼ100%は、交接を終えて体内に成熟した卵を抱えたメスです。産卵のために水深数十メートルの浅瀬まで浮上してきた個体が、産卵後に体力を使い果たし、自力で深海へ戻る遊泳力を失ってしまいます。さらに富山湾は、岸からわずか数百メートル離れるだけで一気に水深が深くなる「藍瓶(あいがめ)」と呼ばれる急峻な海底谷を有しています。この特異なすり鉢状の地形により、沖合の深海から浅瀬へのアプローチが極めて短距離で起きるため、沿岸部に高密度な群れが凝縮されるのです。
方向感覚を失ったホタルイカは、岸辺の街明かりや夜光虫の光に誘引され、寄せ波に乗って波打ち際へと乗り上げてしまいます。これが、深夜の海岸一面に青い発光体が敷き詰められる富山湾ホタルイカの爆湧きの正体です。自然界の厳しさと生命のサイクルが生み出す、儚くも圧倒的なスペクタクルと言えます。