頭部や腕を失ったニケですが、20世紀半ばに彫刻史を揺るがす大発見がありました。1950年、アメリカの考古学者カール・レーマン率いる調査チームがサモトラケ島を再発掘した際、奇跡的にニケの「右手」のひらと指の破片を発見したのです。
この右手パーツの発見により、長年論争が続いていた「ニケは何を持っていたのか?」という疑問に決定的な答えが出ました。それまで一部の研究者の間では「手にトランペット(ラッパ)を持ち、勝利のファンファーレを吹いていた」「勝利の花冠を掲げていた」という説が唱えられていましたが、見つかった右手は指を広げたオープンな状態であり、何も握っていなかったことが判明しました。
現在、この右手はルーヴル美術館の別室で大切に展示されています。右腕を大きく天へと掲げ、群衆や兵士たちに向けて勝利の祝福を与えていたとされるポーズが確定的になったことで、顔もまたトランペットを吹く姿ではなく、開放感に満ちた誇らしい表情であったという仮説が一段と補強されました。