ハーフパイプ競技において、長年「神の領域」と目されてきたのがリップからの高さ6メートル(約20フィート)の壁でした。その常識を完全に破壊したのが、平野海祝が北京オリンピックの舞台で放った7.4メートル(24フィート4インチ)のバックサイド・メソッドエアです。
7.4メートルという数値は、ビルのおよそ2階から3階の屋上に匹敵する高さです。底面のトランジションから計算すると、観客が見上げる目線の高さは優に14メートルを超えます。現場の取材エリアにいた海外メディアの記者たちが思わず実況を止め、頭を抱えて立ち尽くしたほどの衝撃でした。
なぜ平野海祝だけに、この異次元の最高到達点が可能なのか。スノーボードの物理構造に詳しい専門スタッフは次のように分析します。
「ハーフパイプで高さを出すためには、ボトムを通過する際のスピードロスをゼロに近づけ、リップを抜ける直前の数センチで完璧な反発(ポップ)を得る必要があります。海祝選手の最大の強みは、常人であれば恐怖で足がすくむほどのハイスピードで壁に突入しながら、エッジが抜けるギリギリまで体を倒し込み、垂直方向への揚力へと100%変換できる強靭な体幹と独特のリズム感にあります」
北京五輪の決勝3本目、兄・歩夢が歴史的な金メダルを獲得する直前、海祝が見せたあの跳躍は、競技の採点枠組(ジャッジング)すら超越した「人間の限界への挑戦」として、今なおスノーボードカルチャーの伝説として語り継がれています。