『愛を乞うひと』の物語は、単なる虐待の告発にとどまらず、家族という呪縛からの解放と自己のアイデンティティ確立を描いた深い人間ドラマです。
幼少期に実母・豊子から凄惨な虐待を受け、施設で育てられた照恵は、成人して自らも家庭を持ち、娘・深草を出産します。しかし、夫を早くに亡くし、深草と二人で暮らす中で、ふとした瞬間に自らの中に潜む母・豊子の影に怯えていました。「自分もいつか娘を傷つけてしまうのではないか」という恐怖を抱えていた照恵のもとに、音信不通だった実父の遺骨が台湾にあるという知らせが届きます。
深草に背中を押されるようにして、照恵は自らの出自と向き合うため、父の遺骨を探す台湾への旅に出ます。旅先で明らかになる母・豊子の身勝手な生き様や、異父弟である武則との再会、そして叔母・鶴代から語られる過去の真実。かつて自分を痛めつけた母もまた、愛に飢え、時代の波に翻弄された哀しい一人の女であったことを照恵は悟ります。
物語の結末において、照恵は父の遺骨を抱きしめ、台湾の青空の下で自らの過去と決別します。それは母を完全に許すことではなく、「母は母、私は私」という心理的な自立を果たし、目の前にいる娘・深草を心から愛していくという力強い再生の宣言でした。